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渡会審二写真展
「音のない風景」 SILENT LANDSCAPE


渡会審二写真

©Shinji Watarai

会 期 / 2012年6月5日(火)〜7月31日(火)
時 間 / 11:00〜19:00
休 廊 / 日・月・祝
入場料 / 無料

ギャラリー・トーク開催!

   渡会審二 −音のない風景−

       聞き手 市井康延(写真ライター)


写真雑誌『capa』『日本カメラ』などを中心に多くの写真家のインタビュー記事で活躍中の市井康延が渡会審二の仕事、人物像に鋭く迫ります。
怪物渡会審二からどんな話が飛び出すかご期待ください!

日  時 / 2012年6月22日(金) 19:00〜 (当日は18:00閉廊、18:30より受付開始)
参加費 / 2,000円
           mailもしくはお電話にて要予約。
           mailの際はお名前・ご住所・お電話番号を明記のうえ、送信して下さい。
           後日、スタッフより予約確認のmailをお送りさせて頂きます。
ギャラリー・トーク終了致しました。たくさんのご参加ありがとうございました。

*お客様の個人情報を漏洩・流出させたり不正に利用したりしないよう、厳正な管理を実施しております。

内容紹介


広告写真で数々の賞を受賞した渡会審二が、自身を探し求める永遠のテーマとして取り組む「音のない風景」 SILENT LANDSCAPE から、 テーマ別に「少数民族」「水の風景」「ビンたち」「海風景」「ユリ」を展示。
モノクローム(ゼラチン・シルバー・プリント)、カラー(デジタル・アーカイバル・プリント)作品あわせて約40点を展示。


「音のない風景」 SILENT LANDSCAPE

 「少数民族」

渡会審二写真  ©Shinji Watari

今から20年くらい前、ちょうど日本がバブルの時代に、ボクはアジアを頻繁に旅して写真を撮っていた。そこで出会ったのが中国雲南省の少数民族だった。 その当時の中国は今と違って、奥地には観光客もほとんど来ないような未開の村が残っていて、そこでひっそり民族衣装を着て暮らしている人たちが多くいた。 彼らに出会い写真を撮り始めて、やがてそれは北部タイ、フィリピンのルソン島北部、インドネシアのイリアンジャヤに及ぶ旅となった。 そこでボクが見た彼らは、自分の住む世界とはまったく違う姿と格好をした人たちばかりだった。
ボクが会ったほとんどの人たちはカメラの前に立った事もなければ、写真も持っていない人たちばかりで、ボクはその場でポラロイド写真をあげることと引き換えに写真を撮らせてもらった。 ポラよりお金を払って撮る方がコストは安くカンタンだったが、お金は払わなかった。理由は一度お金を払ってしまうと、もうそこから後は収拾がつかなくなってしまう事が判っていたからだ。 これらの写真は彼らの家族写真であり、ボクの写真であって、ボクは幕末の時代にサムライを撮った写真家のような気がしていた。
もう一つの大事なコンセプトは、民族衣装を彼らが日常着としている事だった。ボクが旅をした当時、少数民族の文化が激しく崩壊しかけていた時期だった。 一度民族衣装を脱ぎ捨てて既製服を着た民族と、民族衣装を着続けていた民族との間には精神面で大きな違いをボクは感じていた。 ボクは基本的に民族衣装を脱ぎ捨てた民族には興味が持てず、わざわざ着てもらうことは一部の例外を除いてしなかった。なぜなら仮に着てもらって撮ったとしても、それは「不自然さ」という衣装を身にまとう気がしたからだ。 多分それは自分らの文化に誇りを持っているか、そうでないかの意識の表れだったと思う。この違いはボクは旅をしていて侮れない事実と感じていた。
旅を続けるうちに、果てはインドネシア領イリアンジャヤにまで辿り着いた。そこはパプアニューギニアと同じ島で、文化的にはインドネシア領ニューギニアと云って差し支えがない。 当時そこで見た人たちは裸同然で暮らす人たちで、男はヒョウタンの一種のコテカと呼ばれる物をペニスケースにして暮らす、石器時代さながらの生活だった。 しかしここも現代文明の押し寄せる波はすさまじく、テレビ局や観光客の前だけ裸になって、彼らが去った後、さっさと服を着る村もたくさんあった。街に近い村のほとんどがそんな感じだった。 ボクはそれを撮る気にはどうしてもなれず、思い切って小型飛行機に乗って遥か遠い村にガイドと一緒に飛び、そこで次の飛行機が来るまで一ヶ月くらい彼らとその村で生活した。 写真を生まれて初めて撮る人たちを撮ると云う仕事は、今の日本ではもうあり得ないことで、これらの撮影旅行は貴重な旅ではあったけれど、もう2度と出来ない過酷な旅でもあった。
彼らは今も同じ格好をしているだろうか?

 「水の風景」

渡会審二写真  ©Shinji Watari

少数民族の写真を撮って雑誌で取り上げられたりして、何とか仕事の依頼もくるようになって、晴れて広告写真家の仲間入りをさせてもらった。 いろいろな良い出会いが出来たおかげで、贅沢な仕事にもめぐり合え、人目につくような仕事もさせて頂いた。 しかし気がつくと、旅をしていた時に感じていた何かを置忘れている自分に気がついた。 仕事をもらえる事ばかりに心をすり減らしている自分。「オレって今なにをしているんだ?」家族がいて、生活があって、以前のように気軽に何ヶ月も旅ができるような環境はもうない。あの時ボクは旅をして写真を撮っていたが、今はもう旅をしていない。
そして今、心の中で旅をして写真は撮れないかと考えた。これまでいっぱい旅して来たから本当に出来そうな気がした。 少数民族を撮った時から20年くらい時間が経った。もう一度あの頃の気分に戻って写真を撮ってみたいとハラを決めて撮影を始めてみた。
ボクが住む海の真ん前の稲村ガ崎からスタートし、水辺にまつわる写真をずーっと撮ってみようと思った。 まず手始めに徹底的に澄んだ水が見たいと尾瀬に行き、そこで澄んだ静かな水草を撮った。井の頭公園の池も撮った。雨風の中でカサを持ちながら、揺れる大きな草を撮った。雨上がりの空一面に飛ぶ無数の鳥たちを撮った。パリのブローニュの森の池を撮った。 パリの公園で雨に降られ、池の波紋を撮った。モネの庭の池を撮った。満月の海面に写る光を撮った。ビンの中で揺れる波紋を撮った。
そして今、再び写真を撮る事が楽しくなった。

 「ビンたち」

渡会審二写真
  ©Shinji Watari

鎌倉には海があり、浜を歩いていると時々、流れ着いたビンを拾うことがある。かすれてキズだらけのビンとか、ヒビの入ったビンとか、中には長い年月海に沈んでいて銀化して美しい色を放つビンとか。これは銀化ビンと云って自然に出来たものだが、こんなビンは滅多に拾えるものではない。
光のキレイなところに並べて撮ったら美しいだろうと思い、カラーで撮ってみた。そしてそれを撮った瞬間、すぐに4x5インチの大型カメラで撮ってみたくなった。
これらの写真は静止した時間を写しとった気がする。

 「海風景」

渡会審二写真  ©Shinji Watari

海辺で生活しているから、毎日海を見て暮らしている。ある日ふと、ボクは海を見ていたのではなく、海と雲と、その光を見ていた事に気がついた。
当たり前の話だけれど、そうだったのです。毎日毎日同じ風景のくせに、実は毎日違うのだ。これが本当に同じ風景なのか?と不思議に思えるくらいそれは毎日違うのです。
よし、じゃあそれを撮ってみようとカラーネガで撮影を始めた。最初はカラープリントにしてみたが、何か色が物足りない。 それでネガをスキャンして、彩度を少し上げてデジタルプリントすることで、自分が思う色を再現することが出来たと思う。

 「ユリ」

渡会審二写真  ©Shinji Watari

白いユリで美しいモノクロのトーンを見せる写真を撮ってみたいと思った。
昨今デジタル写真が台頭して来ているが、これらの写真は銀塩の大型フィルムだからこそ表現できるものだと思う。 仮にこれをデジタルで撮ったとしたら、仕上がりはもっと薄っぺらなものになってしまうことだろう。フィルムは絶対に残さなければならないと、これを撮ってより強く感じた。
より深い色調を出すために、プリントにわずかな調色をかけてみた。


作家プロフィール


渡会審二(ワタライシンジ) 名古屋出身

家具職人として仕事をした後、カメラマンを志して上京。
麻布スタジオに勤務しスタジオワークを学んだ後、有田泰而氏の助手を勤める。
後にフリーとなりアジアを旅して作品を制作。
雑誌『Number』『ロッキング・オン・ジャパン』『スイッチ』などの仕事を経て広告写真家となる。
現在、鎌倉稲村ガ崎にて、海を一望する「アトリエ水平線」(スタジオ)を主宰。

<広告賞受賞歴>
2000  毎日デザイン広告賞 最高賞
2005  広告電通賞 雑誌広告電通賞
2010  広告電通賞 新聞広告電通賞
2008  東京新聞広告賞 最高賞
2010  日本経済新聞広告賞 最高賞
2010  日本新聞協会広告賞 最高賞
2010  朝日新聞広告賞 グランプリ賞

その他ADC賞入選、ニューヨークADC賞銅賞など

個展


1992  東京銀座コダックフォトサロン
        「少数民族肖像写真マイノリティーズ」
2009、2011  鎌倉雪ノ下 ギャラリーB
        「音のない風景 SILENT LANDSCAPE」

出版物


PHYSIQUE「神取忍写真集」 バウハウス
MINORTTES「少数民族肖像写真集」/CD-ROM スペースロム