【写真集『黙想録』出版記念】
横谷宣写真展
黙想録
©Sen Yokotani
会 期 / 2024年5月8日(水)〜9月14日(土)
時 間 / 11:00〜19:00
休 廊 / 日・月・祝
入場料 / 無料
内容紹介
写真家・横谷宣が東西ヨーロッパ、南米、インド、エジプト、アフリカ、ロシア、中東、中国を旅し、難民キャンプや戦場、砂漠や雪山、地の果てのような修道院などを訪れ撮影した『黙想録』の写真集出版にあわせて、写真展を開催いたします。
自作の印画紙で唯一無二の世界観を表現してきた横谷ですが、写真資材の入手が困難になったこともあり、新たなプリントができなくなりました。そのため、ほとんどが1枚しか残っていない現存のプリントから写真集を制作する決意をしました。写真家・横谷宣の代表作といえる本作をぜひオリジナルプリントでご高覧ください。
※モノクローム作品(ゼラチン・シルバー・プリントにカルバミド調色)、約50点を展示。
※展示作品は限定各1部のみ販売致します。
※展示会場で写真集『黙想録』の先行販売をいたします。
写真展によせて
最初の写真展「黙想録」から15年、前回の「森話」から11年。これまで使っていた印画紙が製造中止になり、やむなく印画紙の自作に取り組んできました。しかし、写真資材をめぐる環境の変化を見据えた結果、従来のやり方でのプリント制作をこれ以上続けることを断念しました。今後、「黙想録」のプリントを制作することはありません。今回が最後のプリントです。そのことが写真集「黙想録」をつくるひとつの動機となりました。
横谷宣
©Sen Yokotani
「記憶の根っこのいちばん奥にたゆたう風景。ー横谷宣との出会いー」
記憶というものの根を深くたどっていくと、どこかで他者の記憶とつながるのではないか。時間や空間にしばられた、こまごまとした記憶の枝葉を払い、幹をつらぬいて、根っこのいちばん奥まで沈潜していくと、そこには、このような風景がたゆたっているのではないか。初めて横谷宣の写真を目にしたとき湧き上がってきたのは、そんな思いだった。
そう感じるのはぼくだけではないらしい。作家の宮内勝典は、横谷の写真について「いったん網膜に焼きついた外界の視覚像が、夜、眠っているとき無意識の深海からゆらゆらと再浮上してくるような像だ。……だが、いわゆる心象風景といったやわな像ではない。外界を見つめながら、内界から像を分泌してくるような勁さがある」(海亀通信 090204)と述べている。
横谷はなぜ、このような写真をとるようになったのか。彼によると、スタジオ・カメラマンをしていた頃から、気がつくと自分の中にぼんやりとしたイメージがあり、それを表現したいとずっと思っていたという。そこで横谷がとったのは思いもよらない方法だった。内界のイメージは、外界の映像のようなくっきりとした輪郭をもたず、光も均質ではない。彼はそのイメージに近い映像を撮るためのレンズを自分で製作した。それは彼の心の目に映る像を捉えるためのレンズだった。
そのレンズをつけたカメラをもって、横谷は世界を放浪した。戦場、病院、修道院、雪山、難民キャンプ等々、内界のイメージを外界に求めて、彼はアジア、アフリカ、中東、南米などを十年にわたって旅した。だが、横谷にとって、それがどこであり、撮影対象が何であるかは重要ではなかった。求めていたのは、自分の魂の奥にあるリアリティであり、それをとらえるための旅だった。
横谷と出会ったのは、彼がそんな旅のさなかにあるときだった。1990年代半ば、場所は、当時ぼくが住んでいたエジプトのカイロだった。坊主頭で真っ黒に日焼けした旅人だった横谷には、ハングリーな荒々しさと繊細な静けさが同居していた。
言葉をかわすうちに、彼が写真を撮っていると知った。「どんな写真?」と聞いた。横谷は「なんていっていいんでしょう」といって困ったように笑った。そのとき横谷が携えていたのは、古いニコンFE、それに自分で改造したというレンズ一本だけだった。そのレンズは異様に暗く、おまけに赤いフィルターがつけられていた。これでどんな写真が撮れるのか想像がつかない。「プリントした写真はないの?」と聞いた。「ないです」と彼はいった。
ただ、横谷がとつとつと語る旅の話を聞きながら、彼が撮ろうとしてるのが報道写真でも観光写真でもない、なにかとらえどころのないリアリティらしいことは直感された。
その後、ふたたび会った横谷は頬の肉が落ち、さらに日焼けした真っ黒な顔の中で目ばかりがぎらぎらと光っていた。「砂漠へ行っていました」と横谷はいった。エジプトパンとミネラルウォーターのボトルをリュックにつめ、西の砂漠を南下するバスに乗り、なにもないところで途中下車した。パンと水ボトルを砂に埋め、岩陰で暑熱を避け、光が傾く夕暮れを待って歩きまわって写真を撮る。日が暮れると岩陰でパンと水を食べ、そこで眠った。そうやって何日もだれにも会うことなく写真を撮っていたという。
いったいどんな写真なのか。本人の異様な存在感と行動もあいまって、想像をかきたてられたが、やがて横谷はカイロをあとにした。
横谷の写真を実際に見たのは、それから10年近くもたってからだった。当時彼が暮らしていた三軒茶屋の古いアパートで、手作りの革張りのアルバムにまとめられたオリジナルプリントを初めて目にした。数人の友人もいっしょだった。アルバムを開いた瞬間、そこにいた全員が押し黙った。深い静寂が部屋をおおい、息をするのもはばかれた。
いっさいの説明や象徴化をしりぞけ、見る者をひたすらに深い沈思へといざなう写真だった。それがどこであり、何なのかは重要ではなかった。それでも、これらの作品がかたちをとるには、多年にわたる彼の旅の歩みが必要とされたのはまちがいないと思われた。
田中真知(作家)
「エイジングを経て完成するオブジェのような写真集」
厚い表紙の漆黒のクロスに題箋貼りの写真、背の文字が潰れたような金の箔押しタイトル、本文用紙の異例の厚さ、今どき珍しい糸かがりの製本。
「黙想録」は、写真家が「オブジェのような写真集にしたい」と言った一言から始まった。横谷宣が最初に言ったのは、「経年劣化するような紙クロスを表紙に使いたい」ということだった。紙クロスの見本をいくつも取り寄せて彼が選んだのは、すでに廃番になったものだった。とはいえ最近の紙クロス用紙は耐久性も高く、いつまでも変化しない。彼の言葉を聞いた時、「もう横谷宣の頭の中では写真集が完成している」と制作チームは直感した。手にした人の人生に寄り添い、時とともに馴染んでいくような写真集のイメージ。あいにく紙クロスの在庫がなく、写真集は1000部しか作れないことも同時に決まった。
横谷宣は、自分で納得できるまで試行錯誤を重ね、印画紙も自作している。オリジナルプリントは1点か2点しか世に出さない。「黙想録」にセレクトした作品はすべて販売済みだったため、購入者から借りる作業に、1年かかった。
オリジナルプリントから入稿データを作るデジタル撮影を2つの会社で行い、さらにドラムスキャンのテストを経て、最終的にドラムスキャンのデータを基に、用紙と色のマッチングと時間経過による色調の変化を見るための9回のテスト製版と印刷を繰り返して、さらに1年が経過した。
出来上がった「黙想録」は、私たちがイメージする「写真集」とはかなり異なって見える。中身を見られることを拒否するような開きの硬さ、鈍い金箔押しで背に書名が刻まれた以外は著者名も出版社名もない漆黒に、題箋写真が一枚貼られただけの、人を拒絶するような佇まい。
しかし、この写真集には化学的な手触りはなく、見るたびに本文ページは開き易くなり、表紙は持ち主の扱いの風合いに変化していく。
見る人の時間と共に育っていく写真集「黙想録」は、均質なプロダクツを大量に作り続ける現代社会に生きる私たちへの横谷宣からのメッセージのようにも思われる。ページごとに息づく時間と空間を超えた世界の豊かさに引き込まれつつ、同時に、自分が今、時間の奥行きを失った現代社会に生きていることに気付かされ、思わずドキッとするような、横谷宣の黙想に満ちた写真集である。
「黙想録」出版プロデューサー 尾崎靖
【好評発売中!!】
2024年5月24日発売
横谷宣写真集『黙想録』(書肆みなもと刊)
gallery bauhausでは、会場にて横谷宣写真集『黙想録』を販売しております。
通信販売も承っておりますので、ぜひこの機会にお買い求めください。
販売価格:¥7,480(税込)
送料(レターパックライト):¥430
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【返品について】
大変申し訳ありませんが、商品の返品は原則として致しかねます。
乱丁本等の場合は、送料当方負担にてお取り換えさせて頂きます。
gallery bauhaus
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担当: 鈴木
出版社コメント
写真家・横谷宣氏の『黙想録』は、百年後も変わらない姿でこの世にあり続けるであろう、“オブジェ”のような佇まいをした重厚な作品集。約4年の歳月をかけてついに完成です。
『黙想録』は、世間的には全く無名の写真家・横谷宣が独特な美意識に基づいて製作した「作品集」です。レンズのみならず現像液や印画紙まですべて手作りして生み出された作品の数々は、2009年にgallery bauhaus(東京・御茶ノ水)にて「黙想録」と題して発表されましたが、SNSが普及していないこの時期、絵画のようにも見える横谷氏の作品群は口コミによって評価が広まり、ほとんどの作品が売り切れになりました。2013年には同所で2回目の写真展「森話」も開催。こちらも大盛況のうちに幕を閉じています。
本書に収録された作品は「黙想録」と「森話」で発表されたものから選ばれていますが、作品集というまとまった形で個々の写真をつぶさに眺めてみると、写真展では目に映っていなかったディテール、あるいは、生じることがなかった感情がまだ残っていたことに気付くはずです。開く度に深く飽和してゆく。
本書の特長はそんなところにもあるかもしれません。
書肆みなもと 木村潤
作家プロフィール
横谷宣 / Sen Yokotani
1961 岡山県生まれ
1984 大学中退後、スタジオマン、フリーアシスタントとしてカメラマンのアシスタントを務める。
1988 広告や雑誌の撮影を手掛ける。
1990 渡仏。題材を模索し東西ヨーロッパ、南米、インド、アフリカ等の砂漠や雪山、遺跡や難民キャンプを旅する。
1993〜95 パリからエジプト、中東、ロシア、中国を経て帰国。
1996 帰国後、知人から一軒家を借り暗室を作る。
1997 カンボジア、ベトナム、ラオス等を撮影旅行。
2008 岡山に拠点を移す。
2009 個展『黙想録』 gallery bauhaus
作品販売数ギャラリー最多記録を達成。
2013 個展『森話』 gallery bauhaus
2024 写真集『黙想録』(書肆みなもと刊)を出版。
MOKUSO-ROKU
Sen Yokotani Photo Exhibition
8 May 2024 - 14 September 2024
Sen Yokotani traveled around the world and visited refugee camps, battlefields, deserts, snowy mountains, and monasteries that seem to be at the ends of the earth.
A photo book "MOKUSO-ROKU" of the works he took at that time has been completed.
Please take a look at "MOKUSO-ROKU" in an original print that can only be seen here.
gallery bauhaus
2-19-14 Sotokanda, Chiyodaku, Tokyo, Japan
Access map
About 6 minutes walk from Ochanomizu station (JR line/Tokyo Metro Marunouchi line).