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Interview
Yuki Seli


上野道弘 岡崎正人 小瀧達郎 小松義夫 杉浦厚 世利之 田所美惠子 田中長徳 那須則子 堀野浩司


seli写真


Q. パノラマカメラをはじめたきっかけ、またパノラマ写真の魅力を教えてください。

A. 人間の単眼は二つ合わさり立体的な外部の情報を取り込みますが、2:3の比率のフォーマットを人間の目の画角に見立てると1:3ほどの比率になります。人の視覚と異なったパノラマカメラですが、人間の目線に近い感覚の写真を作りたいという思いで撮影を始めました。
私は日本の花鳥風月の絵画や屏風、浮世絵、錦絵、柱絵などの影響をとても大きく受けています。それが、私が撮影する風景と直接繋がりがあるかは分かりませんが…。
日本の絵巻物、たとえば鳥羽僧正の描いた鳥獣戯画は素晴らしいパノラマイメージと思います。鳥獣戯画を観るときに全てを広げて観るのではなく、巻物を広げつつ巻き上げ、また広げるという繰り返しのプロセスの中で、目の前にあったパノラマのイメージが消え、また新しいイメージが目の前に展開されます。巻き上げられたイメージは頭の中の記憶にしか残りません。そして目の前あるイメージがリアリティーのある風景です。そのイメージも巻き取られれば頭の中の記憶のイメージとなり、それをくり返したあとに巻き取られた全てが、頭の中の残像や全体像となります。
この絵巻物の移り変わりは、全てが繋がっているはずの時空間を、過去から現在、そして未来へと観るポイントで体験できる装置だと思います。
パノラマ写真は絵巻物ほどの長さがないので過去と、今見ている現在という構造ではありませんが、無意識に時間軸を意識させるフォーマットではないかと考えます。
もう一つの考え方はその場の臨場感が伝わり易いフォーマットという考えで、状況を説明しやすいフォーマットではないでしょうか?

Q. ボスニアの首都サラエボの作品を出展して頂きましたが、サラエボをパノラマカメラで撮影しようと思った経緯を教えてください。

A. 2001年はじめてバルカン半島へ旅をしました。最終目的地はSarajevoでした。
様々なカメラを旅に持って行きましたが、その中で構造の違うパノラマカメラを2台持って行きました。バルカン半島のカオスたる風景を捉えるには、パノラマカメラが最適と思ったからです。

Q. 2001年の撮影ですが、今回ご自身の作品を振り返り思ったことはありますか?

A. 振り返って思うと、当時はパノラマカメラに振り回されて写真を撮っていたということです。ただ、当時のSarajevoのパノラマ写真を他のフォトグラファーが撮ったものを見たことがないので、貴重な記録になっているとは思います。そして、フォーマットには関係なく、改めてフォトグラファーの視線が大切だと感じました。20年前のSarajevoの写真を観て、もっと自由で発見のある視点が必要だとも感じました。
これからもカメラを通して、新しい視点を発見していきたいと思っています。

Q. 撮影で使用したパノラマカメラについて教えてください。

A. ハッセルブラッド X PanとNOVLEX 135です。

Q. 暗室作業でのこだわりはありますか?

A. 時間が経って次世代の人が私のプリントを見て「知らない世界を発見した」と驚くようなプリントを残したいと思っています。考古学のような話ですが、まさに考古学に近い気持ちでプリントしています。

Q. 最後に、本作品の見どころを教えてください。

A. 今、Sarajevoでは紛争の傷跡を消し去ろうとする人たちと、傷跡を残そうとする人たちがいます。また、どちらでもないという世代もいます。Sarajevoの全ての人はより良い生活を望んでいるし、それはSarajevoに限らず全人類がそうだと思います。今回のパノラマ写真展は各写真家の様々な価値観やルーツ、思想から生み出された写真によって構成されていると思います。見知らぬ国Sarajevoにも私たちと同じように毎日を必死に生きている人たちがいます。そんなことを踏まえながら鑑賞されると想像力が膨らんで面白いのではないでしょうか?私の写真もその一部として観ていただけたら幸いです。


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世利之 Yuki Seli

1969年 生まれ。2002年 桑沢デザイン研究所卒業。写真家藤森武氏のアシスタントを4年務める。
以降、フリーランスのフォトグラファーとして活動。



文責・編集 gallery bauhaus
鈴木拓也             



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