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Interview
Masato Okazaki


上野道弘 岡崎正人 小瀧達郎 小松義夫 杉浦厚 世利之 田所美惠子 田中長徳 那須則子 堀野浩司


okazaki写真


Q. 岡崎さんは今回の出展作を歯科医用のレントゲンフィルムで撮影して独特な雰囲気に仕上げていますが、レントゲンフィルムを入手したきっかけを教えてください。

A. 20年ほど前になりますが、通常の感度で大きなサイズのフィルムを探していたのですが、写真展に来ていただいたお客さんが古いフィルムを所有していると言うことで譲っていただきました。その時点で既に製造から20年近く経過していたためあまり期待はしていなかったのですが、4x5にカットしてテスト撮影してみると「意外と写るな」と言うのが最初の印象でした。

Q. レントゲンフィルムの特徴を教えてください。

A. 今回使用したものは直接撮影用といわれるもので、両面に同じ乳剤が塗られているのが特徴です。その為、裏表がなくてどちらからでも同じように使えます。
感色性はオルソかレギュラーの2種類があります。このフィルムはレギュラー、そしてローコントラストのタイプでした。ハレーション防止層はもちろんありません。

Q. 使用した自作ピンホールカメラについて教えてください。

A. 大きなフィルムなので最初はカメラも大きく、四切りサイズ用に製作しました。捨てられていたインテリア用のオイル缶を改造したのですが、見た目から不法投棄と間違えられて警察に通報されたことがあります。その後ペンキ缶の新品を購入して徐々に小型化、最終的に20センチほどの直径になりました。
ピンホールのレンズ(ホール)は90年代に入手した石油ストーブのインジェクターの部品です。フィルムの大きいピンホールカメラは露光時間が長いので、撮影中に暗室作業のように空や太陽を覆いながら露光できるのも面白さの一つです。覆い焼きではなくて、覆い撮りです。

Q. 撮影地はどのように決めましたか?

A. もともとカメラの大きさゆえに、一枚撮影すると暗室でフィルムを入れ替える必要がありました。その為撮影場所も自宅のある房総半島周辺に限定されていましたが、非常事態宣言で長距離の移動が制限されていて、近くの被写体を見直す良い機会だったと思います。
その後カメラがちょっと小さくなって、車内でフィルムの交換が出来るようになりましたが、パノラマ、そしてピンホールと言う特殊な条件で撮影すると見慣れた場所でも新しい発見がありました。

Q. 暗室作業でのこだわりはありますか?また今回使用した印画紙や調色などについて教えてください。

A. 使用したフィルムが製造されてから40年近く経過しているのでぼんやりとしか写らないのです。そしてピンホールですから普通の仕上がりは望めません。それらのデメリットが生かせるようなプリントとフィルム現像にずいぶん悩みました。その結果、必ず起きるソラリゼーションや極端な軟調を活かして幻想的なプリントを目指しました。40年間の保存と数十分の露光で真っ黒になったネガをプリント作業でよみがえらせるのは大変ですが、とても楽しい作業でした。
最初は印画紙も古い物を探して使っていましたが、最終的に現代の物でも調色によって良い結果が得られるようになりました。調色はブラウン系のプリントはシンプルな硫化調色、ブルー系はFoma のワンショットタイプの濃度を工夫して使用しています。

Q. 最後に、本作品の見どころを教えてください。

A. 仕上がりの予想できないピンホールカメラ、偶然手に入れた古いフィルム、一枚として同じ仕上がりにならないケミカルの調色剤、非常事態宣言で人のいない海辺、いろんな偶然を最大限に活かせるように撮影も暗室も長い時間が必要でした。
所有していたこのレントゲンフィルムはもう全部使ってしまいましたが、同じようなフィルムを探してまたこのシリーズを撮影するのか?と言われたらちょっと判りません。あるいはもうプリントすることも無いのかもしれません。そんなコロナの年の一期一会。同じ物はもう出来ないのです。


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岡崎正人 Masato Okazaki

高知県出身。千葉県在住。1980年代より、国内外で作品を発表。
主にモノクロームのファインプリントを専門として製作、展示活動をしている。


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自作ピンホールカメラと岡崎正人


文責・編集 gallery bauhaus
鈴木拓也             



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