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Interview
Mieko Tadokoro


上野道弘 岡崎正人 小瀧達郎 小松義夫 杉浦厚 世利之 田所美惠子 田中長徳 那須則子 堀野浩司


tadokoro写真


Q. 田所さんは1990年代前半にパリで撮影された未発表のパノラマピンホール写真を出展されましたが、当時どのような意図をもってパノラマ撮影をされたのですか?

A. パノラマという特殊なフォーマットでもピンホールカメラなら簡単に手作りできると思ったので、ピッタリの大きさと形の缶が手に入ったときに試しに作って撮ってみたのが始まりです。自宅近くの景色などもいくつか撮ってみましたが、当時パリ近郊のミニチュアパークを針穴写真で撮影していたので、同じ仕様でもう1台パノラマカメラを作って2台一緒に持っていきました。

Q. パノラマ撮影に使用したピンホールカメラについて、また通常のピンホールカメラとの違いについて教えてください。

A. 手作りの缶カメラはもともと広角の場合が多いですから、画像面の両端を内側にカーブさせ天地をカットすればそれでパノラマのフォーマットになります。ただ、針穴写真の画像はもともとレンズ付きのカメラの画像のようにシャープではないので、ネガサイズは大きい方が有利になります。そこで通常の缶カメラでは4x5インチのフィルムで撮影していますが、パノラマ用にはブローニーサイズのフィルムを画像の幅に合わせてカットし、一つずつセットして使います。どちらの場合も缶カメラ1台で撮影できるのは1カットのみなので、必要なカット数と同じ数の缶カメラが必要です。

Q. 展示作品を観させて頂き、ピンホールカメラとパノラマ写真の相性の良さを感じましたが、田所さんの考えるパノラマ写真の魅力などを教えてください。

A. 日本には絵巻物の伝統がありますが、言ってみれば、絵巻物もパノラマ画像です。水平方向に長い絵巻物には、空間的にいうと厳密な始まりも終わりもない、一つの広がりがあります。また、絵巻物は、右から左へとまなざしが移動することで時間の経過を表しますので、パノラマ写真を眺める場合と似ています。その一方、針穴から自然に入ってくる光を受け止めるだけの針穴写真は、レンズとファインダーを使って意識的に切り取られた写真とは違い、比較的曖昧な空間の広がりを捉えるものです。また、瞬間を捉えられない針穴写真では、一枚の写真の中に時間の経過が蓄積されます。たとえば、波打つ水面が鏡のように静まりかえったり、流れる雲が糸を引いたようになったり、動いている人や車が消えてしまったり…ピンホールカメラとパノラマ写真の相性の良さというのは、おそらく、映像を意識的に瞬間で切り取る通常の写真にはない、「いま」「ここ」ではない、時間的空間的な曖昧さや予測不能なところにあるのではないでしょうか。撮ってみて初めて感じることができる何かがあるところが、パノラマ写真を魅力的なものにしているのだと思います。

Q. 暗室作業でのこだわりはありますか?

A. カメラは缶を使って一つずつ手作り、撮影はすべて手動ですから、適正のネガを常に得られるとは限りません。一日に撮影できるのは多いときでも20カットほどですから、1カットに費やした露出時間と手間を思うと没にするには忍びなく、たとえ不完璧なネガであっても、プリントという最後の手段を使って、試行錯誤を繰り返しながら、少しでも良いプリントとなるよう力を尽くしたいという思いでプリント作業をしています。もっとも、私の場合、写真の一連の作業の中でプリントは一番好きなプロセスですから、楽しんでやっているのですが。

Q. 最後に、本作品の見どころを教えてください。

A. 針穴写真の最大の魅力はパンフォーカスです。接写しても遠近ともに同じピントで映るので、たとえミニチュアを撮ってもまるで本物のように映ります。同じ理由から、画像面が平面である必要もないので、カーブさせてもまったく問題ありません。今回展示した10点のうちの3点の作品は、カーブしたパノラマの画像面に、さらに、フィルムをところどころたわませながらセットして撮ったものです。レンズ付きのカメラでは決してできないことですが、写真の原点である針穴写真には、いろいろな「遊び」も隠されています。


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田所美惠子 Mieko Tadokoro

針穴写真家。1990年にフランスで針穴写真と出会い、針穴写真専門に作品を制作し国内外で発表している。2005年に日本針穴写真協会を設立、翌年より同協会会長。技法書に「母と子の針穴写真」(美術出版社)、「針穴写真を撮る」(雄鶏社)、写真集に「針穴のパリ」、「一葉に逢いたくて」(ともに河出書房新社)がある。

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パノラマ仕様のピンホールカメラ                   


文責・編集 gallery bauhaus
鈴木拓也             



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